牛海綿状脳症(BSE)サーベイランス事業と動物衛生研究所
 
 2001/10/5 更新
 わが国最初の牛海綿状脳症(BSE)の診断をめぐって様々な意見があることから,平成13年10月1日に「農政クラブ」と「農林記者会」において,BSEサーベイランス事業と動物衛生研究所の役割などについて記者レクを行いました。その概要は以下の通りですので,皆さんのご理解をいただきたいと思います。
 
1. サーベイランス事業における動物衛生研究所の役割
  本年度から農林水産省が開始したBSEサーベイランスは,国と都道府県が一体となって推進する事業で,都道府県と国がそれぞれの業務を分担しています。サーベイランスにおける動物衛生研究所の主な役割は,技術的アドバイスと確定診断検査を実施することです。
 
2. サーベイランス事業における診断体制
 1)診断体制
   診断体制には以下の2通りの流れがあります。
   まず,臨床的にBSEが疑われる症例については,すべての検査材料が動物衛生研究所に送付され,病理組織学的検査,ウエスタンブロット法,免疫組織化学的検査など,確定診断を目的とした検査が実施されます。
   一方,臨床的にBSEが疑われない症例は,都道府県(家畜保健衛生所)が一般病性鑑定として延髄閂(かんぬき)部の病理組織学的検査(ホルマリン固定)を行います。また,家畜保健衛生所は閂部に隣接する延髄部分(凍結材料)を動物衛生研究所に送付し,動物衛生研究所ではウエスタンブロット法を実施します。双方の検査結果を総合的に検討し,BSEが疑われる場合には,ホルマリン固定延髄閂部が動物衛生研究所に送付され,免疫組織化学的検査等による確定診断が実施されます。
   今回の症例は臨床的にBSEが疑われなかったため,動物衛生研究所ではウエスタンブロット法を行い陰性の結果を得ました。しかし,県の実施した病理組織学的検査においてBSEの疑いがもたれたため,ホルマリン固定閂部と病理組織染色材料がサーベイランスの手順に従って動物衛生研究所に持ち込まれました。動物衛生研究所では,直ちにより精密な免疫組織化学的検査を実施するとともに,凍結材料についてエライザ法を行いました。その結果,いずれの検査においても陽性反応を確認したことから,本症例をBSEと判断し,生産局衛生課に報告しました。生産局衛生課はBSE技術検討委員会で開催し,本例がわが国最初の症例となることから,病理学的検査材料を英国獣医学研究所に送付し検査を依頼することを決定,その回答を待ってBSEと診断したものです。
   この診断に至る一連のプロセスは,国と県が一体となった診断体制が有効に機能したことを示すものです。
 
 2)診断マニュアルの根拠
   BSEの確定診断の基本(ゴールドスタンダード)は,国際的に病理組織学的検査(免疫組織化学的検査を含む)となっており,病理組織学的検査には延髄閂部が不可欠です。一方,欧州協議会消費者健康保護政策部では,各種診断法の比較を行っています。同協議会の報告「牛の伝達性海綿状脳症の診断法に関する評価」によれば,延髄閂部の病理学的診断に基づいて,閂部に隣接する延髄の免疫学的診断価値を詳細に評価しています。その結果,閂部に隣接する延髄のウエスタンブロット法およびエライザ法で100%診断が可能と報告されています。また,BSEの未発生国では,初発例の診断はゴールドスタンダードを用いる必要があります。英国に依頼した検査も病理学組織的検査と免疫組織化学的検査です。以上のことから,サーベイランスにおける診断では,延髄閂部を病理学的検査材料,また閂部に隣接する延髄を免疫学的検査(ウエスタンブロット法など)材料としました。
 
3. プリオニクス検査が陰性になった原因
  動物衛生研究所で実施したウエスタンブロット法(プリオニクス検査)が陰性になったため,平成13年9月26日にプリオニクス社の社長,ロッシュダイアグノスティック社のBSE担当マネージャーが動物衛生研究所を訪問し,動物衛生研究所の研究者と技術的問題について意見交換を行いました。意見交換会では,検査の全般にわたって技術的検討を行いましたが,検査結果が陰性になった原因についての結論はでませんでした。また,延髄閂部を用いた場合の予想検査結果についても,プリオニクス側からは特別な言及はありませんでいた。一方,プリオニクス社は動物衛生研究所のプリオン病関係の研究業績,技術,研究施設等を高く評価し,今後とも情報交換と技術交流を進めることに合意しました。また,プリオニクス社は動物衛生研究所で開発したプリオン蛋白質に対する単クローン抗体の反応性に高い関心を示し,分与の可能性について打診がありました。
 
4. 再試験の結果
  動物衛生研究所がサーベイランス事業で収集した283検体はすべて2. サーベイランス事業における診断体制の1)診断体制で述べた流れのうち臨床的にBSEが疑われない牛からの材料でした。しかし,病理学検査で陽性でありながらウエスタンブロット法において陰性の例が見つかったことから,今回収集した283検体すべてについて,エライザ法による再試験を実施しました。その結果,千葉県の1頭を除きすべて陰性であることを確認しました。エライザ法は最も検出感度が高く,その感度はウエスタンブロット法の数十倍と報告されています。したがって,残りの282頭はBSE陰性と判断されます。
 
5. その他
  BSEは1986年に英国で初めて報告され,以後発生頭数は急増し,1993年の発生頭数は約3万6千頭に達しました。このようなことから,動物衛生研究所(当時の家畜衛生試験場)はBSEの重要性を認識し,1990年から研究員を順次英国に派遣,4名のBSE研究者を養成してきました。現在のBSE検査は,彼らを中心に衛生検査科(研究支援者グループ)の支援を得て,24時間体制で実施しています。また,日本ではBSEを経験した研究者は,他省庁・大学を含め彼ら以外にはほとんどいません。したがって,今後ともBSEの研究および検査では,彼らが中心的役割を果たさなければなりません。このようなことから,マスコミ関係者にもぜひ動物衛生研究所を訪問し,実際に検査や研究現場を見ていただき,当研究所の役割と実態を認識いただきたいと要望しました。
 
  さらに,動物衛生研究所は,わが国唯一の動物衛生専門研究機関として,各種感染病や口蹄疫等の海外病,生産病,また飼料の安全性や腸管出血性大腸菌O157,サルモネラ等を対象とした安全性研究など,疾病による動物の損耗防止と安全な畜産物の生産に向けた幅広い試験研究を実施しています。動物衛生研究所では,BSEを含めどの様な研究,検査を行っているのか,国民の皆さんにもぜひ知っていただきたいと願っています。 

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