家畜中毒診断 オンラインマニュアル

総論

 

中毒とは

「中毒とは有毒な化学物質が生体に入って特殊の病徴を呈する健康の変態であって,有毒物質の研究は毒物学に属し病徴並びに治療に関する研究は中毒学に属する.而して広い意味では内科学,細菌学,病理学の範囲にも入るが,他面薬理学との関連は恰も両刃のかみそりで,薬としての変化はこれを薬理学で扱い,毒としての変状は中毒学で吟味すべく,この際毒は薬であり,薬は毒である」(大川徳太郎,家畜中毒学)

中毒の原因物質(毒物)は,比較的少量で有害作用を示し,通常の摂取経路(経口,経気道,経皮)により,毒性を示すものであり,細菌などのように器官構造や生活機能を持たないものと定義される.

いずれにしても,化学物質が中毒を起こすかどうかはその摂取量による.

"Dosis sola facit venenum (Dosage alone makes the poison)"(Paracelsusの格言)

 

中毒診断における基本的事項

中毒に限らず疾病の診断は,種々の情報に基づき,総合的に行わなければいけない

臨床症状の正確な把握

発生状況の綿密な調査

感染症とは異なり,中毒の場合は系統的診断が困難であるから,臨床症状及び発生状況から,想定される原因を絞り込む必要がある.したがって,特徴的な症状の把握はもちろん,畜舎の形状や位置,野草,樹木の有無,給与飼料の購入先,飼料を変更した場合はその時期,飼料の保管状況,飼料の汚染,変敗の有無,農薬等の使用の有無などを綿密に調査する必要がある.

診断用試料の適切な採取

家畜疾病の診断に際しては,先ず感染症を疑った対応がとられるため,中毒診断のための材料採取が不十分なことが多い.中毒であるかどうか不明である場合でも,必要な材料を採取し保存しておくことが重要である.採取及び保存に際しては,試料は清潔な容器に保存すること,防腐剤等は用いないこと,生材料は採取後直ちに凍結することなどが重要である.

飼料:発症時に給与されていた飼料を採取して保存する.およそ2 kg以上を,冷蔵あるいは冷凍保存する.水分含量の高いものは必ず冷凍

血液:血液生化学検査用とは別に,毒物分析用に採取する.鑑定殺のように多量の血液採取が可能な場合は,なるべく多量を採取しておく.凍結保存する.

尿:毒物によっては尿の分析が有効なこともある.凍結保存する.

各種臓器:病理組織学的診断用とは別に,肝臓,腎臓等の主要臓器及び病変のある臓器を採取し冷凍保存する.

胃腸内容:なるべく多量(500 g以上)を回収し,冷凍保存する.

糞便:冷凍保存

眼房水:冷凍保存

 

発生確認後なるべく速やかに採取する(飼料,発症動物および同居正常動物からの血液等)

発生が治まってからの材料も重要

採取すべき材料の表

 量,保存法,血液については抗凝固剤等の情報も

病理学的診断

急性に経過した中毒の場合は特徴的な形態学的変化を示さないことが多いが,毒物の作用部位や性状を推測するための重要な情報を得られることもある.また,剖検時には,胃腸内に異物や有毒植物残渣などがあるかどうかも確認する必要がある.

理化学的診断

急性経過の場合は特徴的な血液生化学所見を示さないことも多いが,中毒の原因によっては,血液生化学所見が診断の有力な手がかりとなることもあるので,一般的な血液生化学検査も重要な診断項目である.

中毒の最終診断は毒物の検出・同定であるが,種々の制約から毒物の検出・同定は不可能なことも多い.

飼料中の農薬,重金属,カビ毒等の分析法は,「飼料分析基準」(農水省消費・安全局長通知)で定められているから,中毒の診断に必要な場合もこれに準じて分析することが望ましい.その他の既知有毒物質については,「衛生試験法・注解」(金原出版),「薬毒物化学試験法と注解」(南山堂),「Official Methods of Analysis of AOAC INTERNATIONAL」(AOAC INTERNATIONAL) などを参考にする.その他,毒物によっては簡易検査キットが市販されているものもある.

簡易キットの例

硝酸態窒素:RQフレックス,メルコクアント試験紙(いずれも関東化学)

主要なカビ毒:ELISAキット(アヅマックス,エア・ブラウンなど)

青酸イオン:和光(シアンテストワコー)

グルホシネート:定性キット(アベンティスクロップサイエンスジャパン)

有機リン農薬:有機リン農薬検出キット(関東化学),キットセーフAT-10(アヅマックス)

毒物が特定できない場合は,採取した飼料や消化管内容(あるいはその抽出物)をマウス等の実験動物に接種し,毒性の有無を調べることも有用である.

 

毒性学の基礎事項

薬物の吸収,体内分布,代謝および排泄

毒物のほとんどは生体異物であり,吸収も受動的な拡散によることが多い.

細胞膜は脂質2重層.

透過速度は,膜の両側の毒物濃度勾配と,その毒物の膜脂質と水に対する分配係数で決定.

非極性の脂溶性物質は細胞膜を通過しやすいが,極性の高い水溶性物質は通過しにくい.

一般に,非解離型分子の方が脂溶性が高いので,弱酸や弱塩基では,イオン型は細胞膜を通過しにくく,非解離型は通過しやすい.

弱酸は酸性側で,弱塩基はアルカリ側で,それぞれ非解離型の割合が多い.

弱酸はおもに胃で,弱塩基はおもに小腸で吸収される.

消化管で吸収された毒物は肝臓を通過し,解毒されたり場合によっては代謝活性化される.

吸収された毒物の体内分布は一様ではない.

毒物の組織分布を決定するのは,血液と組織を隔てている膜の透過性,血液や組織を構成する成分(蛋白質,核酸等)との結合性,血液と組織の関門(血液−脳関門,血液−精巣関門,血液−胎子関門等)など.

毒物は肝で代謝されて水溶性が高まり,体外に排出される.

毒物の代謝には多くの酵素が関与しており,薬物代謝酵素と総称される.

毒物の代謝反応は第一相反応と,第二相反応に分けられる.

第一相反応では,シトクロムP-450などの酵素により毒物が酸化,還元あるいは加水分解され,水溶性が高まる.

引き続き,第二相反応でグルタチオン抱合,グルクロン酸抱合,硫酸抱合などを受け,さらに水溶性が高まる.

薬物(毒物)の代謝機能は,一般に草食動物の方が肉食動物より高い.

 

参考図書

中毒一般・毒性物質

有毒植物

分析法

 

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(最終更新日:2006.2.3)

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農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 安全性研究チーム