硝酸塩

 

毒物の所在

窒素は蛋白質を構成する重要な元素で,植物の成長には不可欠である.

植物は窒素を硝酸塩やアンモニアといった化合物の形で吸収する.

根から吸収された硝酸塩やアンモニアは植物内で代謝され,タンパク質の構成要素であるアミノ酸の合成の原料となる.

植物中硝酸塩濃度は,通常は中毒を起こすほど高濃度ではない.

土壌中の窒素が過剰で硝酸塩が必要以上に植物に吸収されたり,吸収した硝酸がタンパク質合成に使われなかったりすると,植物中に硝酸塩が多量に蓄積.

動物が硝酸塩を摂取するもう一つの経路は飲水.

近年,農耕地や牧草地への過剰な窒素投入によって地下水の硝酸塩濃度が上昇.

また,家畜排せつ物の保管や処理過程での防水が不適切だと,地下水に硝酸態窒素が流れ込む可能性がある.

泌乳中の牛は1日に100リットル以上の水を水を飲むので,硝酸塩の摂取総量は無視できない.

毒性

牛が摂取した硝酸塩は第一胃細菌の働きで還元されて亜硝酸になる.

亜硝酸はさらに還元されてヒドロキシルアミンとなり,最終的にはアンモニアにまで還元される.

亜硝酸やヒドロキシルアミンなどは,第一胃の粘膜から吸収されて血液に入る.

亜硝酸やヒドロキシルアミンは,ヘモグロビンをメトヘモグロビンへと変化させる.

メトヘモグロビンは酸素運搬能がないため,動物は酸素欠乏になる.

粗飼料中硝酸塩の許容基準(メリーランド大学)

粗飼料中硝酸態窒素濃度

ppm(乾物換算)

給与上の注意

<1000

充分量の飼料と水が給与されていれば安全.

1000−1500

妊娠牛以外は安全.妊娠牛には,給与乾物総量の50%を限度として使用.場合によっては牛が飼料の摂取を停止したり,生産性が徐々に低下したり,流産を起こしたりする.

1500−2000

すべての牛に対して,給与乾物総量の50%を限度として使用.中毒死を含めて,何らかの異常が起こる可能性がある.

2000−3500

給与乾物総量の35〜40%を限度として使用.妊娠牛には給与しない.

3500−4000

給与乾物総量の20%を限度として使用.妊娠牛には給与しない.

>4000

有毒であり給与してはいけない.

中毒症状

流涎,反芻や食欲の減退,ふらつきや起立不能,乳房,鼻鏡,口唇などのチアノーゼ,心拍数や呼吸数の増加,頻尿.

経過が極めて急な場合は,このような症状を示さずに急死.

妊娠末期の牛に急性中毒が起きると,流産.

血液は褐色に見えるので,チョコレート色と表現される.

剖検所見として,胃腸の粘膜の出血や炎症,心内膜や気管の出血などが認められると報告されているが,特徴的な変化ではない(1-3).

診断

飼料,飲水の硝酸態窒素濃度の測定.

血液メトヘモグロビン相対値の測定.

血清,尿あるいは眼房水硝酸態窒素の測定.

治療

メチレンブルーの静脈注射.1%メチレンブルーの生理食塩水溶液を静注(メチレンブルーが4〜30 mg/kg体重となる量)

硝酸塩の慢性影響について

急性中毒を起こさない程度の硝酸塩であっても,長期間摂取し続けると牛に異常が現れるとの指摘があるが,明確な結論は得られていない.指摘されている慢性影響の詳細については「家畜中毒情報」の記載を参照.

 

文献

1)野本貞夫:日獣会誌,30,3-12(1977).

2)宮崎昭:日畜会報,48,53-61(1977).

3)元井葭子:畜産の研究,47,45-51(1993).

 

(最終更新:2006.6.29)


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農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 安全性研究チーム