これまで,アジサイの葉に含まれる有毒物質は青酸配糖体であると記載してきましたが,これに疑義が生じてきました.
このため,アジサイに関するペイジを2008.7.25に更新しましたが,参考のため,これまでのペイジ(最終更新2007.7.7)をここに保存しています.
学名:Hydrangea macrophylla (Thunb. ex Murray) Ser. f. macrophylla
英名:Japanese hydrangea
アジサイは広く庭園などで栽培されているユキノシタ科の落葉低木で,梅雨時に特徴的な花を咲かせます.大平洋岸で自生しているガクアジサイが原種で,鎌倉時代に日本で園芸種として育成され,江戸時代にはすでに一般的な庭園植物となっていたそうです.中国へはかなり古くに伝わり,ヨーロッパへは,中国を経由して導入されました.シーボルトはアジサイの学名をHydrangea otaksaと名づけましたが,これはシーボルトの愛人だった長崎の遊女お滝さんに由来するそうです.
有毒成分
アジサイには青酸配糖体が含まれています.青酸配糖体が酵素的に加水分解されると青酸(シアン)が遊離します.植物は,青酸配糖体と青酸配糖体加水分解酵素を別々の細胞に含んでいますが,咀嚼や胃内での消化によって両者が接触すると青酸配糖体が加水分解されます.また,青酸配糖体は腸内細菌のβ-グルコシダーゼでも加水分解されます.青酸配糖体はスーダングラスなどのソルガムに多く含まれていますし(2),マメ科のシロツメクサ,バラ科のウメ,アンズ,リンゴなどの未熟な果実などにも含まれています.
青酸はミトコンドリアの呼吸酵素シトクロムオキシダーゼを阻害し,ATPを枯渇させることにより毒性を示します.もっとも障害を受けやすいのは中枢神経系です.青酸は,肝,腎などに存在するチオ硫酸と反応して毒性の低いチオシアネートとなり,尿中に排泄されます.
アジサイの葉に青酸配糖体が含まれているか?(2008.7.4 更新)
有毒植物に関する単行書等にアジサイの葉は青酸配糖体を含むという記載があったため,本ウェブサイトでもそのように記載してきました.しかし,下記のつくば市での中毒を機に,「アジサイの葉に含まれる青酸配糖体」に関する原著論文を検索しましたが,現時点では見つかっていません.
下記の文献(1)のように,アジサイが中毒を起こすことは確かだと思いますが,その原因物質は青酸配糖体ではないかもしれません.
現在情報を収集中ですので,有用な情報が入り次第,本ウェブサイトを更新します.
なお,アジサイの葉に含まれる青酸配糖体を"hydrangin"であると記載した単行書やウェブペイジが数多くありますが,アジサイの根から単離されたhydranginは,C9H6O3という化学式で,窒素を含まず(-CNが無い),7-hydroxycoumarinと同一物質であるという論文があります(3).
検査法
青酸配糖体から遊離した青酸を血液や胃内容中から検出するための定性試験キットが市販されています(和光純薬,シアンテスト−ワコー).定量試験法としてはピリジン・ピラゾロン法があり,詳細は「最新裁判化学」に記載されています.
中毒症状
青酸中毒の動物は,呼吸促迫,興奮,あえぎ,ふらつき歩行,痙攣,麻痺などを経て,重篤な場合は死亡します.急性の場合は突然死します.血液はオキシヘモグロビンによる鮮紅色を呈します(2).
1920年にアメリカで馬および牛のアジサイ中毒の報告があります.これによれば,動物は下痢,体温上昇,呼吸数および心拍数の増加,骨格筋の強い収縮などがみられ,山羊のように足を突っ張って飛び上がったりしましたが,対症療法を施したところ死亡せずに回復しました(1).
治療法
治療には,亜硝酸ナトリウムやチオ硫酸ナトリウムの静脈内投与が有効です.亜硝酸ナトリウムによりヘモグロビンがメトヘモグロビンに変化しますが,メトヘモグロビンは直ちに青酸と結合しシアンメトヘモグロビンになるため,青酸による障害が消失します.ただし,メトヘモグロビン濃度が40%をこえないよう注意が必要です.チオ硫酸ナトリウムは青酸と反応してチオシアネートとなり,毒性を消失させます.成人の場合,3%亜硝酸ナトリウム溶液10mlを3分間かけてゆっくり静注し,つづいて10%チオ硫酸ナトリウム溶液120mlを10分かけて静注します(九州大学医学部衛生学講座井上尚英教授私信).
文献
1) Bruce, E.A. 1920. Hydrangea poisoning. J.Am.Vet.Med.Assoc. 58: 313-315.
2) Cheeke, P.R. 1995. Endogenous toxins and mycotoxins in forage grasses and their effects on livestock. J.Anim.Sci. 73:909-918.
3) Palmer, KH. 1963. The structure of hydrangin. Can. J. Chem. 41: 2387-2389.
2008年6月に,飲食店の料理の「ツマもの」として添えられていたアジサイの葉を食べた方々が,嘔吐,吐き気,目眩等の中毒症寿を起こしました.中毒を起こした方々全員がアジサイの葉を食していたこと,アジサイの葉を食べなかった同席者は無症状だったことから,保健所はアジサイの葉による青酸中毒と断定しました.料理に添えられていたのは,料理店の敷地内に生育するアジサイの若葉で,一皿に2枚添えられていたそうです.
アジサイの葉の青酸配糖体の含有量は,若葉に多く成熟した葉には少ないといわれていますが,人の場合,若葉2枚程度でも中毒を起こすことが今回の事例で明らかになりましたので,くれぐれも注意して下さい.(2008.7.7 見え消しで削除)
上述のように,アジサイの葉の有毒物質については不明な点が多いのですが,つくば市の事例では疫学的にアジサイの葉の関与が強く疑われますので,注意が必要です.(2008.7.7 追加)
2008.7.4 アジサイの葉に青酸配糖体は含まれるかどうかという点について追加
2008.6.26 hydranginに関する情報およびヒトの中毒事例に関する情報の追加