イチイ

学名:Taxus cuspidata Siebold et Zucc.

英名:Japanese yew

イチイはイチイ科の常緑針葉樹で,大きいものは高さ25mにも達する高木です.別名をアララギ,アイヌ語ではオンコといいます.北海道から九州まで分布しますが,特に北海道や東北では群生地がみられます.また,おもに本州中部以北から北海道にかけて,庭木や生け垣として利用されています.3月から4月に開花し,果実は10月頃黒褐色に熟します.木目がまっすぐ通り緻密で光沢があるため,彫刻材,床柱,鉛筆などに用いられます.古くは高官の笏に用いられたため,一位の名が付いたと言われています.イチイは世界各地で弓の材料として用いられていたようで,学名のTaxusはギリシャ語の弓(taxos)に由来しますし,アイヌもイチイを弓に使っています.

有毒成分

イチイの有毒成分は,タキシン(taxine)というアルカロイドで,その名はイチイのギリシャ語読みに由来しています.ちなみに英語の毒素(toxin)もタキシンと同じ由来だそうです.タキシンが報告されたのは1856年ですが,構造決定は遅々として進みませんでした.タキシンは少なくとも11種類のジテルペンアルカロイドの集合体であり,このうち主要なものがタキシンA,B,Cであると1956年に報告されましたが,もっとも多量に存在するタキシンBの構造が明らかになったのは1991年のことでした.タキシンのマウスに対するLD50は硫酸塩として19.7mg/kg(経口)と報告されています(6).タキシンの薬理作用についてもあまり検討されていませんが,タキシンBはクラスIの抗不整脈薬として作用し,心の興奮性を低下させます(1).

ところで,子供の頃イチイの実を食べたという方もあるでしょうが,タキシンは果肉を除く全植物体に含まれています.子供は誤って種も飲み込んでしまうことがあるので,アメリカではイチイがヒトの植物中毒の原因別ランキングで常に上位にいます.

また,イチイの仲間のTaxus brevifolia (Pacific Yew Tree) から,タキソール(taxol)というアルカロイドが単離されています.タキソールは,白血病や難治性の卵巣がんなどに極めて有効であることが知られ注目されています.

検査法

タキシンは肝臓で代謝されて速やかに安息香酸(benzoic acid)になるため,生体材料からタキシンを検出するのは困難と言われています.また,別項のように特徴的な病理所見もありません.したがって,臨床症状および消化管内からのイチイ植物体あるいはタキシンの検出が診断の決め手となります.タキシンの同定にはガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)が用いられます.ガスクロマトグラフ注入部の熱でタキシン側鎖が切断されて生じる分子量134のフラグメント(タキシンA,Bに共通)の存在で確認でき,馬の中毒事例での応用が報告されています(4).

中毒症状

海外ではイチイによる中毒の症例が数多く報告されていますが,ほとんどが急性に経過し,死亡して初めて気がつくことも多いようです(3-5).1981年に青森県で発生した牛のイチイ中毒では,元気消失,食欲廃絶,反芻停止,四肢の振戦,呼吸浅速,心音不正,心拍数減少,体温低下などの臨床症状が観察されています(9).血液生化学所見については,青森での事例で中毒牛のうち1頭で極めて高い血糖値が観察されていますが,特徴的な所見ではありません.また,実験投与による観察では,AST, LDHおよびCK活性の上昇が報告されています(8).

病理所見

病理学的な変化は肝と腎に現れるようです.肉眼的には腎洞部の水腫がみられます.組織学的には,肝実質細胞の空胞,壊死,クッパー細胞の腫大,尿細管上皮細胞の変性,糸球体,ボーマン嚢,尿細管内の好酸性物質などが観察されます(9).

文献

1) Alloatti, G. et al. 1996. Effects of yew alkaloids and related compounds on guinea-pig isolated perfused heart and papillary muscle. Life Sci. 58: 845-854.

2) Krenzelok, E.D. et al. 1998. Is the yew really poisonous to you? Clin. Toxicol. 36: 219-223.

3) Lowe, J.E. et al. 1970. Taxus cuspidata (Japanese yew) poisoning in horses. Cornell Vet. 60: 36-39.

4) Lang, D.G. et al. 1997. Detecting Taxus poisoning using GC/MS. Vet.Human Toxicol. 39: 314.

5) Panter, K.E. et al. 1993. English yew poisoning in 43 cattle. J.Am.Vet.Med.Assoc. 202:1476-1477.

6) Tekol, Y. 1991. Acute toxicity of taxine in mice and rats. Vet. Hum. Toxicol. 33: 337-338.

7) Thomson, G.W. and Barker, I.K. 1978. Japanese yew (Taxus cuspidata) poisoning in cattle. Can. Vet. J. 19: 320-321.

8) 神代清美ら 1991 牛の実験的イチイ中毒.北海道獣医師会誌,35:329-335.

9) 武辺千秋ら 1982 乳牛のイチイ中毒の発生例,畜産技術,通巻327号,7-10.

 

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最終更新日:2004.5.10

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