プレスリリース

平成14年11月20日

独立行政法人農業技術研究機構
          動物衛生研究所
明治製菓株式会社

異常プリオン蛋白質を強力に不活化する新規酵素の発見

(1)研究の背景
 異常プリオン蛋白質は熱処理や酵素処理に対して安定であるため、これを効率よく不活性化する方法の開発が必要である。そのため、現在、我国では牛海綿状脳症(BSE)の原因物質である異常プリオン蛋白質の高感度検出方法ならびに当該蛋白質の不活化技術の開発が急務とされており、動物衛生研究所を中心に種々の取り組みがなされている。本研究は、独立行政法人農業技術研究機構動物衛生研究所と明治製菓株式会社との共同研究「異常プリオン蛋白質分解活性を有する酵素生産菌株の探索」ならびに明治製菓株式会社における新規酵素の開発の一貫として実施されたものである。

(2)研究成果
 異常プリオン蛋白質(マウス脳の抽出物)を分解する酵素生産菌につき、明治製菓株式会社が長年にわたって収集して選抜した所持菌株を中心に、動物衛生研究所にてウエスタンブロッティング法を用いて広く検索した。 その結果、当該蛋白質を強力に分解するバチルス(Bacillus)属の菌株を1株見出した。次いで、本菌株が生産する酵素(ケラチナーゼ、プロテアーゼの一種)の酵素化学的特性を明らかにした。現在、本酵素の遺伝子をコードするDNA配列を解読中である。なお、本成果については、特許出願済みである。

(3)期待される効果
 異常プリオン蛋白質は、熱に極めて安定であり通常の殺菌処理(120℃前後の蒸気を使用)では不活化されず、かつ通常の蛋白質分解酵素に対しても極めて安定である。しかしながら、本研究成果により、異常プリオン蛋白質に汚染された可能性のある器具(例えば畜産分野における屠殺用器具、医療分野における手術用器具など)を容易に洗浄して感染を防止することができ、我が国におけるBSEの清浄化に資することができる。
 また本研究成果は、異常プリオン蛋白質以外にも適応可能である。現在、難分解性であるが故にその処理が課題となっている羽毛等につき、それらを効率的に分解することにより、家畜飼料への応用および有価物回収などの多目的利用の実現が可能となる。

推進責任者 (独)農業技術研究機構 動物衛生研究所所長 清水 実嗣
研究推進者 (独)農業技術研究機構 動物衛生研究所プリオン病研究センター長 品川 森一
    電話:0298-38-7738
研究担当者 (独)農業技術研究機構 動物衛生研究所安全性研究部長 三浦 克洋
    電話:0298-38-7813
  (独)農業技術研究機構 動物衛生研究所プリオン病研究センター 安全性技術 開発研究チーム長 村山 裕一
  (独)農業技術研究機構 動物衛生研究所安全性研究部 主任研究官 吉岡 都
共同研究者 明治製菓株式会社 生物産業事業部動薬飼料部 開発GG長 黒川 知
  明治製菓株式会社 ヘルス・バイオ研究所生物・環境センター 次席研究員 西沢 耕治
  明治製菓株式会社 薬品総合研究所農動薬研究所 研究員 三輪 岳宏
広報担当者 (独)農業技術研究機構 動物衛生研究所 企画調整部情報資料課長 壽 憲子
    電話:0298-38-7708
広報担当者 明治製菓株式会社 広報部 電話:03-3273-3355

本資料は農政記者クラブ・農林記者会にも配布しています


用語集

「異常プリオン蛋白質」
 「プリオン」が、BSEやスクレイピーなど海綿状脳症の病原体を指す言葉であるが、正常な動物は、プリオンと蛋白質のアミノ酸配列のうえで全く同一の正常型の蛋白質を脳などに保持している。その立体構造が異常な形を取ったものが脳内で優勢を占めることによって、BSEやクロイツフェルト・ヤコブ病などの病気が起きる。正常型のものを「正常プリオン蛋白質」、感染性を持つ異常な構造を持ったものを「異常プリオン蛋白質」と区別して呼ぶ場合に使う用語。
 正常プリオン蛋白質は、アミノ酸250数個からなる蛋白質で、ヒトでは第20番染色体、マウスでは第2番染色体上にある遺伝子から作られる。異常プリオン蛋白質は、この遺伝子から蛋白質が作られた後に、何らかの理由で、体内で分解されずに凝集しやすい異常な立体構造をとったものと考えられている。

「ウエスタンブロット法」
 異常プリオン蛋白質を含む脳の材料を、ゲル内で電気泳動を行ない幾つかのバンドに分かれた蛋白質を、ニトロセルロースなどの膜に転移させ、これにプリオン蛋白質のみと結合する抗体を反応させ、この抗体と結合する試薬を用いてプリオン蛋白質のバンドを検出する。異常プリオン蛋白質の検出は、それが蛋白分解酵素で分解されない性質を利用して、検査材料をあらかじめ蛋白分解酵素処理し、正常プリオン蛋白質を除去して検査する。
 BSEの1次検査に用いられるエライザ法と異なり、異常プリオン蛋白質が3本の蛋白質のバンドとして映像として検出されるので、BSE等を確定する診断法に用いられる。

「ケラチナーゼ」
 毛、羽、爪、および角などの主成分タンパク質であるケラチンを加水分解する酵素の総称。『ケラチナーゼ』は酵素名としては俗称であり、正式にはプロテアーゼに分類される。

「プロテア−ゼ」
 タンパク質を構成するアミノ酸の結合(ペプチド結合)を加水分解する酵素の総称で、『タンパク質分解酵素』ともいわれる。人の消化管内に分泌されるプロテアーゼとしては、ペプシン、トリプシン、キモトリプシンなどがあり、タンパク質の消化を担っている。
 また、プロテアーゼは、比較的分子量の小さいペプチドに作用する『ペプチダーゼ』と、分子量が大きいペプチド(タンパク質)に作用する『プロテイナーゼ』とに分類される。


資料

図の説明

スクレイピー感染マウス脳ホモジェネートと培養上清濃縮液を混合し、37℃で1時間反応させた。
対照としてProteinase K (PK)は 50mg/mlの濃度で反応させた(左端のレーン)。
異常プリオン分解活性はウサギ抗プリオンペプチド抗体を用いて、ウェスタンブロット法で比較した。
その結果、培養上清103が異常プリオンを強力に分解した。

 


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